大阪地方裁判所 昭和23年(ワ)1507号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
(事実)
原告は被告等先代養田嘉三から本件土地上の建物を賃借していたが、古建物は戦災により滅失した。そこで原告は昭和二十年から昭和二十一年初めにかけて土地賃借の申出をした。その後罹災都市借地借家臨時處理法が施行せられ、原告は同法第二条による賃借申出の最終日である昭和二十三年九月十四日内容証明で賃借の申出をし、原告の主張によれば右書面は同日嘉三に到達した。
原告は以上の申出により借地権を取得したと主張し借地権の確認及び建物所有についての妨害の除去を求める。
被告は、処理法第二条による賃借権の設定の有無に関し争がある場合は同法第十五条、第十八条により非訟事件手続法による裁判によるべきものであるが少くとも右手続を経た後はじめて出訴できるものであるから本訴は不適法であると主張し、更に次のように抗争する。
(1) 原告の賃借申出は戦災当時本件土地を賃借していたことを理由としており処理法第二条によるものではない。
(2) 当初の賃借申出は処理法施行前であるから同法第二条所定の効果を有しない。
(3) 原告は昭和二十一年三月二十八日賃借申出を撤回した。
(4) 嘉三は同日までの賃借申出には当時拒絶の意思表示をし且つそれには正当の事由があつた。
(5) 昭年二十三年九月十四日附賃借申出は処理法所定期間経過後の同月十七日到達した。
(6) 同月当時嘉三は正当な権限に基き本件の土地に店舖兼住宅を建設居住していたから、原告は処理法第二条による賃借申出をなし得ない。
(7) 嘉三は昭和二十二年八月中予め土地賃貸を拒絶しそれには正当の事由があつた。
(8) 原告は住居は罹災せず既に他に営業所を得ており、これに本件土地を与えることは処理法の意図ではなく、その他原告の主張は道德上法律上許されない。
原告は、昭和二十一年三月二十八日頃賃借申出を撤回したのは嘉三が本件土地を第三国人に売却した旨虚僞の事実を告げたことによるものであつて、右撤回は詐欺によるものとして本訴で取消すが、そうでないとしても要素の錯誤により無効であり、そうでないとしても嘉三の行為は信義誠実の原則に反すると反駁する。
(判斷)
原告敗訴。判決は被告の本案前の抗弁については次のように述べてこれを排斥した。
「よつて先づ処理法第二条による賃借権の認定の有無に関する紛争は同法第十五条、第十八条により非訟事件手続により裁判を求むべきであり、仮に然らずとするも先づ非訟事件手続による裁判を経たる後にあらざれば民事訴訟手続によることを得ざる旨の被告の主張について按ずると、処理法第二条による賃貸借関係の成立については当事者間に争がなく、唯その借地条件について協議が調はざる場合は格別、賃貸借関係の成否そのものについて当事者間に争の存する場合には、当事者は必しも非訟事件手続法により裁判所の判断を求めることを要せず、通常の民事訴訟手続により訴をもつて賃貸借関係の存否の確認、又はこれを前提とする給付の判決を求むることを得べく、これに先立ち、先づ、非訟事件手続法所定の手続によることを要せず、当事者はその選擇に従い直ちに通常の民事訴訟手続による訴を提起すると非訟事件手続法による申出を為すとの自由を有するものと解すべきである。蓋し処理法第十五条、又は第十八条は勿論処理法の全規定に徴するも当事者が直ちに通常の民事訴訟手続により確認又は給付の判決を求むる訴を提起することを禁止したものと解し難いからである。」
本案については原告が昭和二十一年三月二十八日頃した賃借申出撤回に関して略々原告主張通りの事実を認め、右撤回は詐欺によるものとして取消し得べきものか又は要素に錯誤があり無効と解すべきであるとしたが、当初の賃借申出は処理法施行前のものであつて同法所定の効果を有しないとして次のように判示した。
「然しながら原告の賃借申出の撤囘が無効であり、昭和二十一年三月二十八日頃迄の間に有効な賃借申出があつたとしても、右申出は処理施行の日である同年九月十五日以前に為されたものであつて、同法所定の効果を有せざるものと謂うべく、右申出に対して嘉三が承諾の意思表示を為したことのないことも原告の主張自体に徴して明かであるから右申出によつて原告と嘉三との間に本件土地の賃貸借関係が成立したものと認めることはできない。原告は処理法施行後の賃借申出が同法によつて保護せられるのに拘らず、同法施行前に賃借申出を同法による保護の圈外に置くべき理由がないと主張するが、法律の規定は特別の定めない限り遡及して適用せられざるを原則とし、処理法は同法施行前に為された賃借申出にも適用あることを規定していないから原告の主張は採用できない。」
そして嘉三が昭和二十一年九月十五日以前に本件土地上の建物を買取り爾後これに居住していたことを認め、仮に昭和二十三年九月十四日附書面による賃借申出が同日到達したとしてもその効力がないと判断した。